読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

デンシノオト

音楽の印象。

Second Woman『S/W』(Spectrum Spools/2017)

f:id:post-it:20170423094414j:plain

 待望のSecond Womanのセカンド・アルバムがリリースされた。本作もファーストアルバム『Second Woman』を拡張したかのごときTelefon Tel AvivのJoshua EustisとBelongのTurk Dietrichによるポスト・テクノ(ロジカル)・ミュージックである。まさにMark Fell/SND系譜ともいえるグリッチ・テクノで、ビートの反復は崩れ、反復と非反復の境界線で疾走し、溶け合い、まるで「ビート・ドローン」とでもいうべき新たな音響を生成しているようにも聴こえた。そして『S/W』というアルバム名からはロラン・バルトの著作『S/Z』を思い出したりも。するとユニット名の「Second Woman」もまた意味深な(ミステリアリアスな)意味合いを帯びてくるから不思議だ。

GAS『Narkopop』(Kompakt/2017)

f:id:post-it:20170422212943j:plain

 まさかのGAS新作。この名義では17年ぶり。最近のWolfgang Voigt名義の方向性からすると、いったいどうなるのかと思っていたら、あのGASのサウンドの進化系というべきアンビエント・ダブ・オーケストラを聴かせてくれた。幻想と浮遊。暗闇と光。森林と深海。これぞGAS/Wolfgang Voigtによるエーテルアンビエントの深化/結晶。

 

GAS - Narkopop - Boomkat

Sarah Davachi『All My Circles Run』(students of decay/2017)

f:id:post-it:20170422080747j:plain

 〈Students of decay〉からリリースされたカナダのシンセスト/ドローン・アーティスト Sarah Davachiの新作。シンセに加え、チェロや声、オルガン、ピアノなどを用いてドローンのサウンドスケープを構築している。楽器などから生まれる持続音は、シンセのみの音より硬い。しかし、その硬さに耳を澄まして没入すると、硬さの中にも豊穣な揺らぎがあり、揺らぎによって、瞑想的な時間を獲得することができた。

Kelly Moran『Bloodroot』(Telegraph Harp/2017)

f:id:post-it:20170421192614j:plain

 ニューヨークの音楽家/ピアニスト、Kelly Moranによるプリペアド・ピアノ作品。これが実に素晴らしかった。エレクトロニクスとのレイヤーも巧妙で瀟洒で聴きやすい音楽・サウンドを実現。ジョン・ケージの有名な曲を想起する西欧音楽的なガムランミニマリズム、もしくはアルバムのアートワークのような印象の、微かに逸脱する繊細な千/線の音楽/音響。その濁りない旋律と響きが美しい。リリースはUSの〈Telegraph Harp〉から。

kellymoran.bandcamp.com

Gaussian Curve『The Distance』(Music From Memory/2017)

f:id:post-it:20170420212345j:plain

Jonny Nash、Gigi Masin、Young Marcoらによるユニットの新作。2014年に発表された前作『Clouds』も好きだったのでリリースを心待ちにしていたが今作も素晴らしかった。前作以上といっていいほど。浮遊するコードとリズム。淡い色彩のようなシンセサイザー。微かな切なさが胸に迫るサウダージな音楽性。前作以上に自由に、リラックスして録音されたような気もして、それが風通しが良い理由だろうか。アムステルダムで録音された全8曲。すべてが名曲・名演。このアルバムもこれから季節を心地良くしてくれそう。冷房のようなバレアリック/アンビエント

Kiefer『Kickinit Alone』(Leaving Records/2017)

f:id:post-it:20170420074837j:plain

 Matthewdavidが主宰する〈Leaving Records〉からリリースされたカリフォルニアのキーボーディスト/ビートメイカーのデビュー作で、アンビエンスなビート&ジャズなトラック集。10年代の西海岸的なビート・ミュージックとニューエイジリバイバル後のモードを感じる今のサウンドに仕上がっていた(彼はStones Throwからのリリースで知られるMndsgnのツアーにSwarvyと共に参加しているらしい)。泡のように弾けるキーボードとロウテックなビートが交錯し、モダン・レア・グルーヴという矛盾する(?)言葉が脳裏に浮かんでしまったほど。とてもリラクシンで、少しだけストレンジなビート・ミュージック。これからの季節のBGMにすごく良さそう。気持良い。

 

https://leavingrecords.bandcamp.com/album/kickinit-alone

 

Giuseppe Ielasi『3 Pauses』(Senufo Editions/2017)

f:id:post-it:20170418073450j:plain

 Giuseppe Ielasiが主宰する〈Senufo Editions〉が再始動した。2012年から2014年にかけてLuciano MaggioreやNicola Ratti、Bellows、Adam Asnan、Kassel Jaegerなどのアルバムをリリースし、現行のエクスペリメンタル・ミュージックの下地を作ったともいえなくもない同レーベルだが、その復帰第一弾は、やはり主宰Giuseppe Ielasiの4年ぶりの新作『3 Pauses』であった(Giuseppe Ielasi『Rhetorical Islands』以来ということになるのか。ちなみにInventing Masks名義では昨年(2016)にEPをリリースしている)

 『3 Pauses』は3枚のCDに分かれており、それぞれ1曲ずつ収録されている。フィールド・レコーディングされた音が用いられており、“Part1”は淡い環境音の持続と接続、“Part2”は環境音のどこかリズミカルな接続、“Part3”は、水流のようなドローンというムード。どの曲も儚いマテリアル感覚は共通しており、これまでの〈Senufo Editions〉の延長線上にあるマテリアルな環境録音作品である。当然、Francisco Lópezのようにハイファイなフィールド・レコーディング作品というわけではなく、徹底的に地味な音響が持続している。むろん、この「地味さ」は意図的なものだろう。じじつ、唯一のレーベル・アナウンスは「低音量での再生」というものだ。

 全編、形容しがたい音である。霞んだ音色のフィールド・レコーディング・サウンドが持続し、微かに変化を遂げる。しかしまったく派手さはない。フィルム撮影の映画の音響のような音色が鳴っているのみだ。音は生成的に変化を遂げるというよりは、定位を僅かに変えたり、不意に別の音素材に代わっていたりする。このシンプルさ、素朴さ。それゆえの異様さ。まるでモノクロ映画の音響を聴いているような感覚。フィルムの、そのむこうに音があるような感覚。

 〈Senufo Editions〉のレーベル・カラーであるモノ性を継続しつつ、しかし、そのモノは消えかけ、記憶のようになっている。そんな印象を持った作品であった。思えばアルバムも「三つの停止」である。音における「停止」とは何か。消えかけていく希薄なモノの存在=音ではないか。真っ黒のボックスデザインにも、それは表現されているように思えた。